1. 自己紹介
1-1. 略歴
2021年3月に東京大学の航空宇宙工学専攻(修士)を卒業し、9月からStanford大学のAeronautics & AstronauticsのPh.D.に進学する予定の飯山といいます。学部から東大の航空宇宙で、修士卒のタイミングでの渡米を決断しました。学部修士時代は色々なことに手を出していて、まだ特にこれという固まった専門があるわけではないですが、宇宙機の航法誘導制御やミッション設計を中心に研究しています。
これまでの活動歴や研究内容を時系列順に書き連ねると以下のような感じです。
大学入学まで
- 小学生の時は五年間海外で過ごしていました。
- 都内のとても自由な雰囲気の中高一貫男子校出身です。特に高校時代に目立った研究歴や活動歴はなく、部活を中心にのびのびと過ごしていました。(勉強は比較的真面目にやっていましたが)
学部時代
- 学部は東大理一から航空宇宙工学科に進学しました。学部時代も運動会(体育会、大学公式の部活)でバドミントンに明け暮れる毎日で、論文執筆や留学はしていませんでした。(学科のえぐい量の課題と部活を両立するので精一杯でした)
- 強いてあげれば、CanSatという小型の模擬衛星を飛ばしてゴールに誘導する国際大会に参加しました。
学部4年、修士時代
- 通常の東大生同様、本格的に研究活動を開始したのは学部4年からです。東大では月圏にGPSシステムを構築するための最適な衛星配置や、地球上からの運用にあまり頼らずにそれらを自律的に運用する方法について研究していました。並行して、EQUULEUSという月の裏側を目指す超小型衛星の開発に携わっていました。
- 修士一年の時に東大工学部の海外武者修行プログラムというのを使って一ヶ月ほど米国の大学院の研究室にて滞在して共同研究を行いました。研究課題は東大に持ち帰り、その後も共同研究を続けています。
- EQUULEUSとは別に、JAXAの宇宙科学研究所というところで深宇宙ミッションの概念検討(実際に衛星を作り始める前にコンセプトの実現可能性などを検討すること)チームのメンバーとして活動していました。
- その他にも大学の奨学金付きのSDGsプログラムに参加したり学部の軌道力学の講義のTAをやったりしていました。
1-2. 海外Ph.D.留学を志した理由
最初のきっかけは高校生の頃にネットで読んだ現研究室の先輩でもある小野雅裕さんの記事、「宇宙を目指して海を渡る」です。MITで航空宇宙工学を学んでNASAのJPLで世界最先端の宇宙探査機を作るという話のスケールの大きさに心が揺さぶられたのを今でもはっきりと覚えています。
同時期に東大で開かれた講演会で東大には超小型衛星を実際に作れる研究室があるらしいという事を知り(これが小野さんがいた研究室だったのですが)東大航空宇宙を志し、現在の研究室に辿り着きました。3年間は今の研究室で衛星開発に携わりながら実際の宇宙機に関する知見を深めたいと思っていたことと、学部時代に大して研究成果を積めておらず海外大学院合格の目が小さかったこともあり、修士はそのまま東大に進学しました。
修士進学後、宇宙機の自律化や分散宇宙システムの制御や運用方法に関するより基礎的な研究をしっかりと行いたいという思いが強くなったこと、アメリカの大学院やNASAを実際に訪問して日本の航空宇宙業界との規模の違いを肌で実感したこと、絶対に人生の早い段階で世界に出るべきだと研究室の教授の方にアドバイスされたことも踏まえて、修士卒業後にアメリカ大学院の航空宇宙のPh.D.に進学する意志を固めました。
1-3. 出願結果
昨年12月に6校に出願し、本記事執筆の段階でStanfordを含む3校から合格いただいています(MITとCaltechからはリジェクトされました)。進学先はStanford大学に決定しました。最終的にオファーを断る形となってしまった学校名を記すのは少し気が引けるのでここには記しませんが、もし気になる方がいらっしゃれば個別に聞いていただければと思います。受験した中でStanford大学のアドミッションプロセスが最も大変だったこともあり、本記事ではStanford大学の選考プロセスを中心にお話ししたいと思います。
2. 注意事項
本編に入る前に、このような受験体験記を読む上で気を付けるべきだと思うことを列挙しておきます。
- この記事を含め、ほどんどの体験記は受験がうまく行った人によって書かれており、生存バイアスが思いっきりかかっています。さらに受験プロセスが非常にストレスフルで大変なものであることもあり、無意識の内に書く側がその難しさや努力量を強調しすぎてしまうことも少なくないかなと個人的には感じています。受験する年や分野によって大きく事情は変わるので、体験記はあくまで一つの事例として受け止めて、そこから必要以上のプレッシャーを感じることなく、全て語尾に「知らんけど。」とつけて読むくらいがいいのではないのかと思います。
- 本記事に関して言えば、来年以降 (Stanford大学の) 航空宇宙Ph.D.を (修士卒で) 受ける人には共通して当てはまることが多いと思いますが、分野が違う場合などはあまり当てはまらないことも多いと思います。例えばCSや神経科学など人気が高く熾烈な競争が繰り広げられている分野では、大きく事情が異なると思います。
本記事の目的は私が経験した受験プロセスについて記した上で、その中で私が感じた出願のコツや注意点を紹介することにあります。決して、この通りにしないと合格できない、こうすれば合格できる、このようにすべきだということを主張することが目的ではありません。 あくまで一体験談として捉えてください。
3. 合否決定プロセス
はじめに、Stanford大学航空宇宙工学専攻のPh.D.コースの合否決定プロセスについてお話ししたいと思います。
- 12/1に出願書類締め切り。Ph.D.とMasterは完全に分離して選考されます。Ph.D.コースの今年の出願者数は221名だったそうです。
- 提出されたSoP/推薦状/研究実績/テストスコアなどを元にAdmission Committee (Aero&Astroの教員数名からなる)によって面接試験によって進む候補者が絞り込まれます。今年面接試験に進んだのは40~50人程度だったそうです。
- 一月後半に書類選考に通過したことが知らされ、SoPや研究分野から3人の教員が割り当てられて1月下旬から2月上旬にかけて面接が行われます。志望教員がAdmission Commiteeに入っていない場合、この段階でようやく志望教員に自分の出願書類を読んでもらえます。面接自体はZoomで20-30分ほどミーティングする感じでした。私の場合、教員2名は自分の専門や希望分野に関連する教授で、残り一人は全く専門の違う日本人の教員の方でした。(面接はもちろん英語で行われました)
- 面接が終わった後、おそらく専攻全体での会議があり、合格者が決定されます。今年の最終的な合格者は24名だったそうです。(Admission Rate: 10.8%)
- 最後の面接から1週間ほどして、2/12に合格を知らせる非公式のメールが教員から直接届きました。正式なオファーレターは2/19に届きました。
なお、合否決定プロセスについては、航空宇宙のPh.D.でこのようなAdmission Committee主体型の選考プロセスを取っている所は割と稀な気もします。むしろFaculty一人ひとりの権限がより強く、選考はAdmission Committee主体ではなくFacultyが取りたい人材を直接指名できるようになっている大学院が多い印象です。この場合、Admission Committeeによるプレセレクションを潜り抜ける必要はないので多少の短所には目をつぶってくれる可能性も高くなる分、各教員に事前にアプローチして関係を築くことが非常に重要になります。
よって、志望する大学院がAdmission Committee主体型とFaculty主体型いずれの方式の選考を行っているのか、事前に情報を仕入れておくことは非常に重要な気がします。ホームページに書いてある場合も多いですし、志望教員にメールを送ると結構教えてくれます。前者の場合は書類選考通過したら君の書類見てあげるよとコンタクトメールが跳ね返される場合も多いです。いずれにせよ9月中くらいまでに早めにメールを送っておくことをお勧めします。
4. 事前準備
4-1. 事前コンタクト
前節でも少し触れましたが、出願前に希望している教員には必ずコンタクトを取ることをお勧めします。コンタクトの種類は大きく分けて以下のどれかだと思います。
- 研究インターンをお願いして、実力を直接アピールする
- 研究室訪問、研究プレゼン、研究ディスカッション等をお願いして、能力やマッチングをアピールする
- 興味がある旨を伝えて、今年度学生を採用するか確認する
1が成功すると出願に非常に有利に働くことはいうまでもありません。一定期間以上ともに研究をすれば、PIの方に推薦状を書いていただくこともできます。トビタテや東大工学部の「海外武者修行プログラム」など、一部ないし全額の費用を負担してもらえる給付型奨学金も色々あるので積極的に調べてみると良いと思います。特に学部卒で直接Ph.Dに合格されている方はこのようなプログラムを使って直接コネクションを築いてる方が多い印象です。ただパンデミックの影響で、実際に訪問するのはしばらくの間ハードルが高いかもしれません。研究内容によってはリモートでできるものもあると思うので、相談してみると良いかもしれません。
航空宇宙では2をやっている人が多い印象です。体験記などを読むと、コロナ前までは夏休みとかに直接研究室訪問されていた方が多い印象ですが、去年はそれができなかったので、私は何人かの教授にメールを送ってZoomでのミーティングをお願いしました。結論から言うと私はどのようなメール送ろうかあれこれ考えているうちに出願締め切り直前になってしまい2人の教授としか事前にはビデオで話せなかったので、あれこれ悩みすぎる前に早め(遅くとも9月中)までに一度メールを送ることをお勧めします。少なくとも研究室から出ている論文をいくつか流し読みしてどのような研究を行っているかは把握してからコンタクトすべきだとは思いますが、別に論文の中身を細部まで完璧に理解している必要はないです。
なお2すらする時間がなくても、もしくは書類はAdmissionの時に見ると突き返されても(Admission Committee中心型の選考を行っているところに多い)、3に書いたように今年学生を取るつもりかだけは早めに確認しておくことを強く推奨します。私はCaltechの教授に確認するのが遅れ、直前で彼が今年は学生を取らないことを知りました(ダメもとで出しましたが落ちました)。余談ですがMITについては(気候的な不安から)志望順位がそこまで高くなかったのと第一希望の教員がウェブサイトにメールを送るなと書いていたので何も送りませんでしたが、落ちたので学生にコンタクトを取るくらいはした方が良かったかもなと思っています。(もちろん落ちた原因は他にも色々あると思いますが)
コンタクトメールの書き方は、ここやここが参考になると思います。後者のところに書いてあるようにProfessorは忙しいので、自己アピールは程々にして簡潔に用件を伝えるのが良いと思います。
4-2. 奨学金
良くも悪くも海外大学院受験の最大の山場の一つが(給付型)奨学金の獲得です。ただ、奨学金獲得がトッププログラム合格の必要条件なのか十分条件なのかは個人的な経験でははっきりと断定はできません。トップの私立大学は寄附金などで比較的資金が豊富なので、獲得資金のウェイトは比較的低めでかなり個人のスキル重視なのでは? という気もします。(Stanfordはお金には全く困っていない印象でした… MIT AeroAstroのホームページにはFunding状況は合格に一切影響しないと一応書いてあります) 一方、前述したFacultyの権限が大きいプログラムでは個別の教授の資金状況がよりダイレクトに採用に反映されるので、資金を学生側から持ってこれるかは最終的な合否や合格決定の早さに大きく影響する印象を受けました。
個人的に思うのは、特に民間財団の倍率はとても高い故かなり運要素も大きいので、なるべく多く出すのが良いということと、また仮に民間財団全落ちに終わってしまっても出願を諦める必要はないのではないかということです。分野、熱意、研究計画、性格、コンタクト状況など財団によって重視する内容にはばらつきがあり、また審査員の方々は往々にしてあなたの研究分野の専門家ではないので、仮に奨学金に落ちてしまってもあなたが人格的に魅力的でないとか、研究実績や研究計画がダメであることを意味するわけでは全くないと思います。またニッチだったり論文が出にくい研究分野だったり、東大の学内選考を勝ち抜かないといけない場合などは厳しい戦いを強いられると思いますが、それもあなたの研究に価値がないことを意味するわけではないはずです。私は運良く中島記念国際交流財団さんに採用していただけましたが、残りの民間財団3つは全て書類落ちでした。
私の個人的な反省を挙げるとするならば、正確性を重視するばかり少し研究計画を難しく書きすぎてしまったことです。専門家が読むSoPよりも数段階分かりやすくキャッチーに書くこと、研究の社会的意義を強調することが重要な気もします。目指す奨学金に合格した方が知り合いにいれば、相談に乗ってもらうと良いでしょう。
5. 必要書類
5-1. ミニエッセイ (Diversity Statement)
まずはエッセイについてお話しします。意外でしたが、エッセイについては大学院によってテーマが結構違います。特にトップ校は書類を使いまわしてほしくないからか、Statement of Purposeとは別にいくつか短めのエッセイ課題が複数あることも多いです。中でも日本人に馴染みがないのが、Diversity Statementと呼ばれるエッセイです。以下のようなことを聞かれます。
Stanford University regards the diversity of its graduate student body as an important factor in serving the educational mission of the university. We encourage you to share unique, personally important, and/or challenging factors in your background, such as work and life experiences, special interests, culture, socioeconomic status, the quality of your early educational environment, gender, sexual orientation, race or ethnicity. Please discuss how such factors would contribute to the diversity (broadly defined) of the entering class, and hence to the experience of your Stanford classmates. (1000 character)
特殊なバックグラウンドを持っている方や、社会的に恵まれない人のためのボランティア活動などを行った経験のある方はそれを書くのが良いと思いますが、日本の中流以上の家庭で普通に暮らしてきた多くの人には書きにくい話題だと思います。個人的にはPh.D.では (少なくともStanford航空宇宙の場合)、ここは大きく合格には効いてこないと思うので、あまり心配しすぎず無難にまとめるのが良いと思います。そもそも今年の合格者のうち、米国外の大学から合格したのはたった3名だったことから判断しても、(残念ながら?) 学科がここを重視しているとは考えにくいです。その上で思うことは以下の2点です。
- 理系らしい発想かもしれないですが、定義を理解するのが最初のステップです。まず各大学自体のDiversity Statementを読みましょう(必ずあります)。ここで定義されている内容に沿って考えていくと考えやすいと思います。
- (米国の) 航空宇宙分野ではアジア系の割合がまだまだ少ないので、日本人であるだけである種のMinorityではあると思います。近年、中国の宇宙開発の力が伸びていることと米中間の緊張が高まっていることも踏まえて、日本が世界の宇宙開発においてアジアの一員として国際協調のために果たせる役割は重要になってくると思います。そのような背景に注目するのも一つの手かもしれません。
Stanfordでは他にも二つの短いエッセイがあり、これまで行った課外活動であなたが学んだことと、なぜStanford航空宇宙のPh.D.に行きたいのかのモチベーションについて簡潔にまとめよというテーマで書かされました。
5-2. メインエッセイ (Statement of Purpose, SoP)
SoPについては、Xplaneの該当箇所を読んでいただければ抑えるべき点が丁寧に書いてあると思います。個人的に特に注意するべきだと思う点は以下の通りです。
- 中にはSoPはあまり重要ではないとおっしゃる方も稀にいらっしゃいますが、自分が受験した印象では少なくとも航空宇宙系ではエッセイは超重要だと思います。最低でも一ヶ月は時間を取って全力で取り組みましょう。
- 絶対にアメリカ(もしくは希望する国)の同分野のPh.D.課程に在籍されている方に添削していただきましょう。自分だけで書いたSoPは、まず間違いなくバイアスがかかっていてわかりにくい内容になってしまいます。私はXPlaneの添削サービスで東大航空宇宙の先輩である上原さんと小栗さんに何度も添削していただき、エッセイが劇的に良くなりました。感謝してもしきれません。また最後に英文校正サービスを使ってネイティブのプロに添削してもらうことをお勧めします。私はEssay Edgeと呼ばれるサービスを使いました。
- 文字数や枚数など、フォーマットが指定されている場合は確実に守りましょう。文字サイズは特に指定がない限り12ptが無難です。最初は入らないと思いますが、それは無駄な文や冗長な言い回しがあるということなので、徹底的に削りましょう。
- Paragraph Writingを徹底しましょう。各段落の一文目だけを辿れば文章の流れがわかるくらいが理想です。主語はIにして、active verbを使いましょう。
- 有名な論点として、第一段落をPersonal Hookで始めるべきか (ここの最終ページ参照)というのがあります。個人的な印象としては、航空宇宙系では冗長なPersonal Hookは不要で、さっさと論点に入って実績ややりたい研究に分量を割いた方が良いと思います。これは分野的に、例えば子供の頃ロケットの打ち上げを生で見て感動した話などについて長々と語る受験者が多く、教員側も割とうんざりしているというのが挙げられます(ある教員から直接聞いた話です)。宇宙機や飛行機への夢について熱く語り合うのは入学後に取っておき、研究内容の議論で教員をワクワクさせることを目指しましょう。ただこれについては分野や人によって事情や考えが違うと思うので、先輩に相談してみて下さい。
- これまでに培ったスキル→Ph.D.での学びや研究→将来の究極の目標、の流れをはっきりとさせることが最も重要であると同時に、最も難しいところです。Steve Jobsの有名な言葉を借りると本質的には、You can’t connect the dots looking forward 1 ですが、ここではその不可能を可能に見せることが求められます。自分が何をやりたいのかに関してはしっかりと考えることは重要ですが、入学後絶対にSoPに書いてあることをやらなくてはいけないわけではないので、思い詰めすぎずとにかくストーリーを綺麗にまとめることに集中した方がいいと思います。残念ながら自分の葛藤や迷いを全て正直にエッセイに書いていては、往々にして軸がブレブレになってしまうので… (僭越ながら逆に全く迷っていない人は可能性を絞り込みすぎている可能性もあるので、一度立ち止まって広く可能性を考えてみるのもいいのではないでしょうか)
以上を踏まえて私は以下のようにSoPを構成しました。
- イントロ (将来の大きな目標やビジョン、ざっとした経歴、その中で抱いた問題意識、Ph.D.で研究したいこと)
- 過去の研究内容の目次的なショートパラグラフ
- 過去の研究x3つ: 数値や学会名等を入れてできる限り具体的に。(なお、博士論文ではないので、完結していなかったり行き詰まっている研究でもそこから何かいい学びや発見があったのであれば書いて良いと思います。) xxxは解決したが、yyyには依然課題を残している、zzzにも拡張可能であるなど4の研究課題につながる伏線をここで張っておく。
- (これまでの経験を踏まえて) 大学院で取り組みたい研究課題
- 希望する教員と、各教員との研究によってどのようなアプローチで4を解決したいかを記す。自分ができる貢献や生み出せるシナジーを中心に書く。
- Ph.D.後のキャリアパスとまとめ。
獲得した奨学金やTA、他の課外活動についてはCVにも記載できるのでSoPでは省略してしまいました。色々書きたい気持ちをグッと抑えて、簡潔にまとめることが大事です。またよほどの理由がない限り、成績が悪かった言い訳を長々と書くのはあまりいい印象を与えないのでお勧めしません。部活やサークルが忙しくて…とかは当然ながら理由にならないです…
5-3. 推薦状
Stanfordは3枚以上6枚以内提出する感じでした。アメリカですと通常は3枚のところが多い気がします。自分は以下の4人の方にお願いしました。
- 指導教員 (所属研究室の准教授)
- 研究、衛星プロジェクト、TAについて
- 副指導教員 (所属研究室の教授)
- 課外活動、獲得した学内奨学金、研究について
- 短期で研究インターンしていた海外研究室のAssistant Professorの方
- 研究、英語能力について
- 共同でプロジェクトの検討を行っていた宇宙研 (JAXA) の助教の方
- プロジェクトへの貢献やスキルについて
下書きを求められた推薦状については、とにかく具体的なエピソードで研究への主体性と研究能力をアピールすることを意識しました。また4つの推薦状の間でできる限り強調したいスキルが被らないように気をつけました。また過去にその研究室から同じ大学や米国有名大学院に卒業生を送り込んでいる場合は、その方との比較をお願いするのが望ましいです。
また当たり前のことですが、推薦状を依頼する教員の方は皆さんお忙しいので、早め早めに動くようにしましょう。お願いする時期や枚数を前もって伝えておくと良いと思います。
5-4. CV、研究実績
アメリカの研究室のHPに行くと学生や教授のCVが落ちているので、良さそうなものを適当に真似して作りましょう。私は以下の項目で構成しました。
- Contact Information (自作HP情報もここに)
- Education
- Fellowships and Awards (学内奨学金いくつか、民間財団奨学金、国際学会のStudent Competitionのファイナリスト一回)
- Research Interests
- Research Experience (東大 + 海外研究室短期インターン)
- Academic Appointments (JAXAの宇宙研のAssistant Researcher)
- Teaching Experience (1つ)
- Projects (東大やJAXAで行った衛星プロジェクトなど)
- Publication and Presentations (共著ジャーナル論文1報、国際会議論文主著2報(+1報執筆中)、共著4報)
- Miscellaneous (使えるソフトウェアやプログラミング言語など)
CVには図などは載せられないので、別に自作ホームページを作成して、そこに簡単に研究成果をまとめておくのがお勧めです。
研究成果については、主著ジャーナル論文が間に合わなかったことはかなりの懸念事項でしたが、航空宇宙分野は
- CSなどの一部の分野ほどAdmissionの競争が過熱していない (中国人の留学生が少なめ)
- ソースコードの公開が進んでいなかったり、比較的大規模なシミュレーションや大掛かりな実験が多いなどの理由で論文が量産しにくい (諸説あり)
- 武器取引規制や輸出規制、秘密保持などの問題で、論文の形で成果を公表できないインターンやプロジェクトも多い
などの理由から、私の印象では航空宇宙分野では出願前から大量に論文を書いてるのは必須ではなさそうです。(CSに近いロボティクス寄りのラボとかだと事情が違うかもしれません)私は上記の実績で、素晴らしいCVだね!と2人の年配の教授に普通に褒められました。実際、以前Stanfordの航空宇宙の教員の方と直接お話しした際には、論文数よりも自分の培ってきたスキルと今後の研究計画やビジョンとの繋がりをしっかり示せる方が大事であると言われました。他の合格者を見てもバリバリ論文を書いてる感じではなかったです。また学会賞なども国内学会のものだと基準が不明なので、大して選考に与える効果はないのではないかと思います。もちろんここら辺は分野によるので、自分の分野の先輩に聞いてください。
なお学部の出身校がどの程度考慮されているのかは不明です。合格者24人のうち、半数は MIT, Caltech, Stanford, UC Berkeley, Yale のいずれか出身だったので確かに偏っている気もしますが…
5-5. 成績表
学部のGPA3.53、 修士は4.00でした。学部と修士のどちらが重視されているのか、最低許容ラインはどこなのかについては全く分かりません… 海外院受験ではGPA4.0満点に近い非常に良い成績を学部で取られている方が多い印象ですが、私は学部のGPAが3.5程度でもトッププログラムに合格できました。
これは米国大学院の教員の方とも話したのですが、そもそも国や大学によって講義のレベルや成績システムが異なる中でGPAの比較を行うことに意味があるのか私は疑問です。その教員の方はGPAそのものよりは、研究と関連の深そうな講義の履修数や成績だけを主に見ているとおっしゃってました。ただ大学院によってGPAで足切りを行うと宣言しているところもあるので、可やCは取らないように気を付けてGPAを高く保っておくに越したことはないです。(GPAを最適化するのが学問への姿勢として良いかは別にして)
東大の場合は成績表にGPAが記載されません。そのような場合自分で計算するのではなく、GPA欄は空欄にした上で、大学の成績システムについて説明する自作の付属資料を提出することが求められる場合があります。私はMITのCSAILにいらっしゃるYukaさんから説明資料をいただいて参考にさせていただきました。この場を借りて改めてお礼を申し上げます。
5-6. テストスコア
StanfordではTOEFLとGREのテストスコアを提出することが求められました。(今年はコロナの影響もありますが)GREは格差是正の観点から全体的な傾向として廃止する流れに向かっている印象で、私の受験した中で提出が任意でなかったのはStanfordだけでした。私のスコアは以下の通りです。
- TOEFL 105 (R30 L27 S23 W25)
- GRE (V155 Q169 AW4.0)
(嫌味に聞こえてしまうかもしれませんが) 私自身が帰国子女で、ある程度雰囲気で解けてしまったこともあり、対策はあまり時間をかけなかったのであんまり有益なことは言えません。他の方の記事をご覧ください。非帰国子女で真面目にテスト対策をされた方の方が私より最終的にはいいスコアを取られています。テストスコアがどの程度重視されているのかは不明ですが、航空宇宙ではStanfordの合格難易度がMIT, Caltechと並んでトップクラスであることを考えると、仮に来年以降GREが復活することがあってもTOEFL100点(明記されている足切り点)、GREのV+Qで320点超えができていれば、航空宇宙系ではまず大丈夫なのではないかと思います。すみません、ただこれについては何にも確証がありません。
6. 面接
上記の書類を総合的に審査されて、書類選考を通過すると面接試験に呼ばれます(面接はない大学院も多いです)。前述したように、3人のFacultyと各30分ずつ1:1でZoomでミーティングする感じでした。30分という時間から、ネガティブチェック的な意味合いが強いと予想していたのですが、結果だけ見ると面接でも半分弱落とされてしまっていたので、この面接も引き締めて行った方が良さそうです。基本的に共通して聞かれる質問は以下の3つでした。
- これまでの経歴や研究について説明して。
- なんでStanfordを志望するのか教えて。
- 何か質問ある?
1は基本的には質問に答えている間に、その研究はどういう仮定を置いたの?一番苦労した点はどこ?なんでその手法使ったの?などツッコミが入ってきてそれに丁寧に答えていく感じでした。主体的に研究を行ってきた人ならば問題なく答えられると思います。特に相手の教授が過去に行った研究を調べておいて、自身の研究の中でもしそれに関連しそうな箇所があればそこを重点的に説明するのはいい考えかもしれません。相手の教授が詳しいテーマの方が、より議論が盛り上がって印象も良くなると思います(その分野についてある程度しっかりとした知識があることが前提ですが)。 なお、例えばこの公式について説明してみたいな学力や知識を直接試す質問は自分の場合一切なく、あくまで研究の質問を通して思考力や知識の幅を推し量られている感じでした。また自分の第一希望の教員からは、後でこれまで書いた論文を全て送るように言われました(読まれたかは不明)。
2はSoPに書いたことをしっかりと復習しておけば大丈夫だと思います。特に他の大学院と違うその大学院ならではの強み(Faculty単体とDepartment全体の両方)を自身のやりたい研究テーマと関連づけてしっかりと説明できることが大事だと思います。またここで事前にリーチアウトしたか? なども聞かれたので、出願前に本気度を示すために一度はメールを送ることをお勧めします。
3は一つもないと確実に印象が悪いので、複数質問を用意しておきましょう。私は研究分野が離れている教員についてもHPをみて、何か自分の専門に引き付けて質問できることを考えておきました。基本的に自分の研究について聞かれて嫌な教員の方はいないはずです。またQual制度や単位システムなどについて聞くのも悪くない気がします。
面接は全体的に和やかな感じでしたが、要所要所厳しい質問もあり、緊張感と時差で万全のコンディションではない中で面接を行うことになるので、準備は入念に行っておきましょう。こことかにも面接のTipsが少し書いてあります。Zoom面接の良い所は、カンペを用意できることです。聞かれそうなことは事前に予想して、ディスプレイにメモを表示しておくと良いでしょう。
私はワイシャツ着用で壁をバックに行いました。スライドとかは特に用意せず、全て口頭のみで説明しました。
7. 合格後
合格すると、大学のVisit Dayに招待されます。今年は全てVirtualでの実施でした。そこで教授や学生と色々話すことができます。(Stanfordでは同期の交流イベントやプレゼントまで用意されていて非常に力が入っていました)
ひとしきり喜んだら、(複数校合格した場合)進学先を決めるフェーズになります。それぞれの進学先に長所と短所があるはずなので、ネームバリューに惑わされれずそこを慎重に見極める必要があります。結構本音で話してくれるので、お勧めは研究室のPh.D.学生と直接話すことです。大体皆さんすごく親切に相談に乗っていただけます。重視するポイントは以下のような感じでしょうか…
- 指導教員の指導方針、性格、テニュアを取っているか
- ラボの雰囲気、人数
- 最近及びこれから予定している研究テーマ
- 近年の獲得グラント
- 気候や治安など環境面
- TA, RA, Fellowshipなど資金面
- インターンや就職したい企業や研究所 (例: NASA JPL)がある場合、そことのコネクションがあるか
- Departmentの規模 (指導教員と万が一合わなかったときに代わりがいるか)
- 自身の研究に関係しそうな他のDepartmentやFacultyの強さ
非常に難しい決断になると思いますが、納得できるまでとことん考えて心を決めたら素早く他の大学の教員にオファーをお断りする旨連絡を入れましょう。必須ではないのかもしれませんが、私はきちんと進学先も伝えました。教員の方は慣れていますし、言い方は悪いですがあなたの替えはおそらくいくらでもいるので、なるべく早く伝えることで先方も次の候補にオファーを出せます。いずれ学会や査読などで会うことになる可能性も高いので、誠実な態度を心がけて失礼のないようにしましょう。(複数の教員にあなたが第一志望だと伝えたり、他のオファーを持っていることを隠すなどはトラブルの原因になる気がするのでやめた方がいいと思います)
8.番外編: メンタルマネジメント
8-1.私のケース
意外と体験記で詳しく書かれる方は少ないのですが、海外大学院受験で個人的に一番の困難は選考プロセスの不透明性ゆえのストレスと不安だと思います。特にコロナ禍での受験となった今年は、色々イレギュラーなことも多くまた一人で考え込んでしまうことも多かったので、秋頃はかなり精神的に追い込まれました。結果的に乗り越えられましたが、来年以降も自分と同じような思考の罠にハマってしまう方もいるのではないかという気もするので、自分が陥った思考集を列挙したいと思います。
(1) エッセイを書いている間に自分がそれを本当にやりたいのか分からなくなる
前述したように、エッセイでは人生の点を前向きに繋いでいくという、本質的には不可能なことを華麗にやっているかのようにうまく見せることが求められます。奨学金の申請書やエッセイを書くために一生懸命綺麗に点を繋ごうとしている内に、何故だか自分が奨学金獲得や合格のためにストーリーを作り上げて嘘をついていると言う思いに駆られてしまうようになりました。
(2) 不安になる内に自分の適性を疑い始める
1のようなことを考えている内に、「天才」ではない自分がPh.D.へ行くことが果たして良いことなのか、社会の役に立てるのか、と疑うようになりました。研究者の方々もコロナでイライラしていたのか、バイアスがかかりまくりの「xxxでない人は研究者(博士課程)に向いてない」系のツイートや記事が去年多くでていたことも知らず知らずのうちに自分のメンタルに悪い影響を与えていたと思います。
(3) 研究室の開発プロジェクトに十分にコミットできていない罪悪感
Ph.D.出願の準備が忙しくなってきたことと、海外の研究室との共同研究を始めてしまって余裕がなくなってきたこともあり、私は周囲に相談して研究室の衛星開発プロジェクトの一つのタスク配分を抑えてもらうことにしました。周囲がとても忙しそうにしている中、研究室を去るための準備を進めていることに罪悪感は割とありました。
(4) 推薦状を自筆している内に自分が詐欺師であるかのような錯覚に陥りかける
日本だと、結構教員の方から推薦状を下書きしてくるように頼まれます。上述したように、強い推薦状となるように自分のことをよく書くわけですが(当然嘘は書いていませんよ)、上記のような精神状態の中で何か自分が彼らをだましているような錯覚に陥りかけました。
8-2. 個人的なTips
こういう思い込みに陥って変な消耗をするのを避けるために、私が思うTipsを書いておきます。
(1) 人と話す
- これで大体解決します。しばらく自粛生活が続くと思いますが、定期的に人と話しましょう。身近に海外大学院出願仲間がいたらその人と話すのが一番良いかもしれません。
(2) Ph.D.留学は既に日本で成功している非常に優秀な人間だけが行うものだという考えを捨てる
- 割と周りの人と違うことをやるので、勘違いして無意識のうちにこれに近い思考を持ってしまいがちな気がします。変な気負いは捨てて、自分自身の目的に集中しましょう。
- むしろ、今自分の居場所がないと強く感じていて、小さな世界に閉じこもっている人がいたら、それこそが外に飛び出す原動力です。2
(3) 他の人ができる/できないことと自分がどう生きるかを結び付けない
- 留学準備をしていると、自分より既に遥かに実績を残している(もしくはそのように見える)同世代を目にすることがあります。ですが、背景や研究内容も違う他人とあれこれ比べて一喜一憂したり、ましてやそれで自分のやりたいことを諦めるのは生産的ではありません。
- 他人のことを一切気にしないなんていうのは無理な話ですが、自分の人生は自分のものなのでなんだってやっていいはずです。3
(4) 全ての人から認められるはずだという幻想を捨てる
- 精一杯頑張って結果を出したとしても、それをどの程度評価してくれるかは人によってまちまちです。奨学金も大学院も要はマッチングなので、落とされてしまったとしても自己否定する必要はないと思います。とりあえず現時点で自分をきちんと評価してくれる人の所で精一杯に頑張るのが双方に取って幸せだと思います。(一度断られたら第一志望を諦めろと言っている訳ではありません…)
- 特に日本の筆記型の受験に成功した人は勉強すればテストの点数が上がる(そしてそれが認められる)経験を積んできた人が多いと思うので、そういう思考に陥りがちな気がします。
(5) タスク調整や周囲への説明は早めに
- 出願時は想像以上に事務手続き等で忙しくなりますし、精神的な余裕もなくなってきます。周囲に出願する旨を早めに話しておいて、夏以降のタスク調整を早めに行っておくことをお勧めします。
- 予想の1/3しかできないと思うくらいがちょうど良い気がします。
(6) エッセイの中の自分=将来の自分、だと思いつめすぎない
- SoPの欄でも書きましたが、出願時のエッセイで要求されていることは本質的に不確定な未来を無理やりつなげるプロセスです。なので、もちろんエッセイを書く際には真剣にPh.D.で何をやりたいのか考えるのが大事ではあるものの、それを将来の自身を縛るものとして捉えすぎない方が良いです。エッセイで描かれる自分はあくまで出願書類上の仮の自分だという割り切りが最後には必要だと私は思います。
- エッセイや推薦状の中で自分が一番良く見せられる方法を一生懸命考えることは、全然不誠実なことでもダサいことでもないと思います。むしろそういう努力をせずに勝手に相手が才能を見出してくれると期待する方が傲慢なのではないでしょうか。
なお私は心理学の専門家等では全くないので、上記の思考法の中にはあまり良くないことも書いてあるかもしれません。あくまでこんな考え方もあるんだなと思っていただいければと思います。
9. 最後に
海外大学院の出願プロセスは必要な作業量も多くて大変なものだと思います。しかし一方で、出願を通して共に留学を志す同志や、既にアメリカで活躍されている先輩、さらに分野を代表する有名なProfessorの方々と知り合うことができ自分の世界が大きく広がり、プロセス自体をとても楽しめたこともまた事実です。この記事がわずかでも将来留学を志す方々の役に立てば嬉しく思います。
May the Force be with you!
付録: 体験記や資料へのリンク
海外Ph.D.留学に興味がある方はまずは、 Xplaneのサイトを一通り読み、スラックグループに加入することをお勧めします。
また特にここ数年、多くの方々が詳細な受験体験記を残して下さっています。全てをここで紹介することはできないのですが、いくつかここで紹介しておきます。
情報工学系
- Yukaさんのブログ: 東大の理情卒業後、MITのCSAILに在籍されているYukaさんのブログ
- Akari Asaiさんのブログ: 東大の電情卒業後、ワシントン大学で自然言語処理の研究をされているAsaiさんのブログ
- Eigen Cofeeさんのブログ: 今年度Stanford EEのPh.D.に合格されたBoston大学でBrain Machine Interfaceの研究をされている方のブログ.
- 青木俊介さんのHP: CMUで自動運転の研究をされていた青木さんのHP.
航空宇宙、ロボティクス系
- Kazuya Echigoさんのブログ: 東大の電気系工学専攻卒業後、ワシントン大学で宇宙機の着陸軌道最適化の研究をされている越後さんの記事
- 塚本さんのブログ: 京大の航空宇宙卒業後、Caltechの航空宇宙工学専攻で制御の研究されている塚本さんのブログ
- Yuki Shiraiさんのブログ: 東北大の機械知能航空工学科卒業後、UCLAでロボティクスの研究をされている白井さんのブログ
- 宇宙を目指して海を渡る: MITで航空宇宙を専攻されていた小野雅裕さんの記事。海外Ph.D.学位留学記事のパイオニア的存在
生物系、自然科学系
- Naoto Yamaguchiさんのブログ: 今年度受験した東大生物情報学科の山口さんの受験体験記
- 神山先生のHP: ワシントン大学卒業後、現在お茶の水女子大で気象学の助教をされている方のブログ。留学されている方の公演は(良い意味で)意識が高い感じのものも多いのですが、神山先生の公演動画はのびのびとしていて個人的に好きです。